大学では対面授業がようやく再開。コロナ禍でも有意義な社交の場をもつために【福田和也】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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大学では対面授業がようやく再開。コロナ禍でも有意義な社交の場をもつために【福田和也】

福田和也の対話術

 

■匿名空間の交際は、気楽だが責任がないので有意義な交際が成立しにくい!?

 

 確かに前に申しあげたように、コミュニケーションが日々刻々と技術化されている現在においては、かつてはあいまいだった関係までもがしっかりと機能化されつつあります。すべての場所において各人の立場が決まっていて、そこでいかにふるまうかということもまた、マニュアルによって決められているという具合です。

 こういう時勢になってくると、若い人だけではなしに、中高年に至るまでが、むしろ機能化された空間の方が楽だ、応対が決まっている方が心配がない、という心持ちになってしまいます。

 となると、機能的な立場から離れて他者と対するのは、匿名的な交際空間、つまりパソコン通信とか、匿名で利用するソーシャルメディアといった空間のみになってしまいます。実際こうしたコミュニケーションがかなりの支持を集めているのは、私たちの生活があまりにも機能的になって息苦しいにもかかわらず、容易にそこから出ることが出来ないという事情があると思います。

 けれどもかような匿名的な空間は、立場だけでなく、自分の名前を含めてあらゆるアイデンティティを消してしまっているので、気楽であるけれども何の責任もないので有意義な交際が成立しないのです。

 にもかかわらず、立場にとらわれない交際が大事なのは、立場と離れた形で他者と対するところに、その人の掛け値なしの人間的な魅力とか、コミュニケーション能力が問われるからです。無論人の価値といったものは、機能的な立場と切り離せるものではありません。しかしまたそうした立場抜きの魅力なしには、人間としての真価といったものも発揮し得ないのです。それは相補的なものであって、裸の人間として、いかに他者に対する想像力をもっているか、理解力と説得力をもっているかということがなければ、いくら地位があってもつまらない人間だということになるでしょう。

 一方で、こうした立場を離れた場面でいくら輝いていても、社会的な地位を作る継続的な努力や才覚に欠けているのであれば、信頼するには足りないということになるでしょう。

 というわけで、社交的な場が肝要だとしても、なかなか今日ではそういう場所を得るのが難しい、不可能なように思われます。しかしながら、現在においても社交は成り立ち得ます。それはたしかに漫然として求められるものではありません。というよりも、意識的に求めなければ、あり得ないものです。

 むしろこのように考えるべきではないでしょうか。社交的な空間とは、出来合いの場所として提供されるべきものではない、自分から、自分の努力と才気によって作り出す、あるいは作り出すべく不断の努力を要するものであると。

 そして、より本質的な意味で、どこかすでにある場所に参入するのでなく、自分で場を作っていこうとする積極性こそが、社交を生き生きとしたものにするし、意味あるものにするのです。

 

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福田 和也

ふくだ かずや

1960年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部仏文科卒業。同大学院修士課程修了。慶應義塾大学環境情報学部教授。93年『日本の家郷』で三島由紀夫賞、96年『甘美な人生』で平林たい子賞、2002『地ひらく 石原莞爾と昭和の夢』で山本七平賞、06年『悪女の美食術』で講談社エッセイ賞を受賞。著書に『昭和天皇』(全七部)、『悪と徳と 岸信介と未完の日本』『大宰相 原敬』『闘う書評』『罰あたりパラダイス』『人でなし稼業』『現代人は救われ得るか』『人間の器量』『死ぬことを学ぶ』『総理の値打ち』『総理の女』等がある。

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